講談社・写真集/『西本願寺御影堂 平成の大修復 全記録』
浄土真宗本願寺派の本山である西本願寺。その境内の中心に位置するのが、世界最大級の木造建築「御影堂」です。この西本願寺御影堂平成の大修復は10年の歳月をかけて、平成21年4月に完成しました。御影堂は、寛永13年(1636)、安土桃山時代、及び、それ以前から受継いだ匠の技を駆使して建立された木造建築ですが、親鸞聖人550回の大遠忌を迎えた寛政12年(1800)以来2度目、200年ぶりの大修復で、その時も10年間かかったそうです。
文化財保存の活動に関わって来た私は、この平成の大修復の話を耳にした時、日本で最高の腕を持つ職人の伝統の「技」を映像で記録しておきたいと考えました。
そこで、西本願寺に映像記録の撮影許可をお願いし、NHKに対して10年の記録映像の撮影を提案したことで、同プロジェクトが始まったのです。
この後、NHKは、高精細ハイビジョン機材を使用して、工事用大屋根の架設段階から大修復完成まで、10年に亘って実にきめ細かく取材・撮影し、修復の進行に伴い、その折々に、総合テレビ、教育テレビ、衛星ハイビジョンチャンネルで特集番組を放送しました。
その1本、ハイビジョンスペシャル「木と土の名工たち〜西本願寺御影堂大修復」は、2004年にスロバキアのコシツェ市で開催された「アーキフィルム・テレビ祭」で、「コシツェ市長賞」を受賞。木と土で建立されたこの巨大な建造物と、そこに盛り込まれた匠の技をつぶさに見た人々にかなりの驚愕を与えたに違いありません。
そして、今回、NHKの写真提供によって実現した『西本願寺御影堂 平成の大修復 全記録』は、講談社の編集/発行のもと、西本願寺御影堂の大修復に使われた職人の技術はもちろん、西本願寺にまつわる歴史背景や、西本願寺の徒歩圏で味わえる京の食、くつろぎの宿に至るまで、周辺の情報まで幅広く紹介した写真集として発行されました。
西本願寺御影堂の大修復に関する記録は、京都が誇る景観の一つとして西本願寺を見慣れている日本人にとっても驚くことが多く、白銀に輝く世界最大の瓦屋根が21種類に及ぶ様々な形の瓦で構成されている点や、大屋根の南北両端に聳える鬼瓦「獅子口」は40ものパーツを組み合せて造られ、それらの瓦を留める鉄釘はお茶で錆止めしたり、木材の腐食した部分を取り除いて新たな木材を継ぎ足す継ぎ方は寄木細工に似ており、その卓越した技術に目を奪われることでしょう。
また、内陣を飾る狩野派絵師による金箔で描かれた障壁画や厨子の脇にある来迎柱の彫刻などの復元では、贅沢に金箔で覆われ、それが内陣の黒い漆塗りの床に写り込み、天上から地下深くまで、無限に繋がって見える空間は、御真影が安置された厨子を包む優美な極楽浄土を現すに充分な素晴らしいものです。
更に、大修復では115,000枚の瓦の4割、730枚の畳の600枚を再使用しています。木材も腐食した部分だけを取り除き、再使用に耐え得る部材はことごとく再使用し、その伝統の技の上に現代の技を付け加えるような技術は、後世に残す史料としての価値だけでなく、職人を目指す若者や研究家の方々にも大いに喜んでいただけることと思います。
この修復にかかった10年と云う歳月は、解体した部材を可能な限り再使用しながら、建造された当時の技術を再評価し、受継ぐには重要な時間だったのでしょう。その間、江戸の技術と平成の最新技術を融合させ、先人と現代の匠たちが協力し合い、その融合させた匠の技を新しく、後世に残すようにするには必要な時間だったに違いありません。
まさに、写真集で紹介している西本願寺御影堂の大修復の様々な記録は、世界に誇れる日本の文化と精神、そして匠の技を結集した1冊と言えます。この修復に携わった全ての関係者や、より多くの方々に捧げたいと思います。
アートプロデューサー
松 岡 久 美 子
Kumiko Matsuoka
Art Producer & Administrative Director