『文化人・芸能人の多才な美術展』出品者の声
■役所広司さん
日本を代表する俳優として、数々の賞を受賞し、精力的に活動する役所広司さん。
今回、初めて「文化人・芸能人の多才な美術展」に出品していただきました。役所さんの出品作のエピソードのほか、お仕事やアートとの関わりについてお聞きします。
Q1.『文化人・芸能人の多才な美術展』実行委員会
この度は、第16回『文化人・芸能人の多才な美術展』にご出品いただき、誠にありがとうございます。今年の美術展は、「アートのもつ自由な表現」を主テーマとし、これに「絵画が楽しい」そして「芸術的な生き方」を加え、人物の内面を映し出す「顔」を芸術として捉えたり、これにふさわしい個性的な生き方をされてきたスターの持つ「カリスマの力」にスポットを当てたいと考えています。
役所さんの直近の活動として、6月27日から映画「渇き。」が公開になりますね。
映画のキャッチコピー「愛する娘は、バケモノでした」が強いインパクトを与えていますが、その娘の父親役を演じられる役所さんの迫真の演技がとても楽しみです。
最初にお聞きしてみたいことは、この映画「渇き。」の中で、役所さんが演じて最も難しいと感じた「顔」や「表情」を挙げるとすれば、それはどのようなシーンだったのでしょうか?
A1.役所広司さん
顔や表情のことを意識して演じる事はあまり良い事ではないと思っています。
瞬間瞬間で感じたことが自然に表情に現れることが良い結果になると信じてやっています。ですから演じる人間の心に近づくことが、一番重要で、一番難しいこと、と感じています。
「渇き」という映画では、突然失踪した娘を探す、ろくでなしの父親の役です。愛情の欠片もなかった男が、徐々にその言動、行動とは裏腹に娘に対する愛情が芽生えてくるその変化に苦労しました。
Q2.『文化人・芸能人の多才な美術展』実行委員会
ありがとうございます。
次に役所さんの出品作についてお聞きますが、中国・殷(商)の時代に行われた漢字書体の一つで「亀甲獣骨文字(きっこうじゅうこつもじ)」が使われていますね。
「亀甲獣骨文字」は、知られる限り最古の漢字と言われているようですが、何故この漢字書体を使われたのでしょうか?
また、作品タイトル「歌」に込められた役所さんの思いや、何かエピソード等もあれば、是非教えてください。
A2. 役所広司さん
10年ほど前、筆を使って文字を書いてと頼まれたことがありまして、面白半分で書いてみたら何とも下手くそで、こりゃ駄目だと思いました。で、「甲骨文字典」という本に出会って、文字に物語があって笑っちゃうほど面白く、見ているだけで楽しくなりました。
これなら書けるかもと書いてみたら、「面白いじゃん」と言われ有頂天になった訳です。
今回は東日本大震災の復興支援ということで、歌には人間を元気にする力があると思い、「歌」という言葉を選びました。
Q3.『文化人・芸能人の多才な美術展』実行委員会
少し前にテレビ番組に出演されていた役所さんを拝見し、その中で「木工」に凝ったことがあるとお話されていたことを記憶しています。確か廃材を使って「箱」を作られたとか…今回は「書」を出品していただきましたが、役所さんは普段からモノづくりをされたり、書や絵を描かれたりされているのでしょうか?
過去にどのようなものを制作されたことがあるか、いくつか教えてください。
A3.役所広司さん
「書」も「木工」もいつもやっている訳ではありません。でもやりだすと夢中になります。書や木工の道具も好きで集めています。最近、知り合いの大工さんに、愛用されていた凄い鑿のセットを戴いたんです。眺めているだけで匠になった気分になります。
書は色々な文字を書きました。監督した映画「ガマの油」のタイトルも書きました。
木工は、椅子、棚、箱、テーブル、みんな廃材を使って作りました。これで何ができるか?と考えるのが楽しいです。
Q4.『文化人・芸能人の多才な美術展』実行委員会
次に何か制作するとすれば、挑戦してみたいことも含め、どのようなものが考えられますか?また、役所さんの制作された「箱」も見たい方が沢山いると思うのですが…
A4.役所広司さん
書も木工も小学生の作品のようで自分でも笑っちゃいます。あえて言えばテーマは「味」。
僕は寸法をちゃんと計らず始めてしまうので、箱などは予定のサイズよりどんどん小さくなってしまいます。新たな作品に挑戦というより職人さんに技術を習いたいですね。
Q5.『文化人・芸能人の多才な美術展』実行委員会
最後に、役所広司さんのファンの方々、美術展にお越しいたく方に向けたメッセージをお願いします。
A5.役所広司さん
美術展にお越しの皆様、ありがとうございます。
今回、東日本大震災の復興支援ということで参加させて頂きました。
たくさんのお客さまに自分の書いたものを観られるなんて、本業の俳優の作品を観られるより百倍恥ずかしいです。でも勇気を出して参加させて頂きました。
■役所広司プロフィール
1956年1月1日生まれ。長崎県諫早市出身。
96年、『Shall we ダンス?』『眠る男』『シャブ極道』で国内の14の映画賞で主演男優賞を独占。また、東京国際映画祭 主演男優賞を受賞した『CURE』(97)、カンヌ国際映画祭 パルムドールを受賞した『うなぎ』(97)、同映画祭 国際批評家連盟賞・エキュメニカル賞を受賞した『ユリイカ』(01)、シカゴ国際映画祭 主演男優賞を受賞した『赤い橋の下のぬるい水』(01)など、国際映画祭への出品作品も多く、数々の賞を受賞している。05年には『SAYURI』、続く06年にはカンヌ国際映画祭 監督賞、エキュメニカル賞、ゴールデングローブ賞 作品賞、米アカデミー賞 作品賞にノミネートされた『BABEL』に出演。
ヴァレンシェンヌ映画祭(03・フランス)において、これまでの映画界への功労を表彰され(‘オマージュ’賞)、ドービル・アジア映画祭(08・フランス)においても、 映画出演とアジア映画への貢献に対して‘TRIBUTE’(賛辞式)を受ける。また、国際映画祭 フィルム・マドリッド(08・スペイン)では『象の背中』の演技で最優秀俳優賞を、ドバイ国際映画祭(11)のアジア・アフリカ部門でも最優秀男優賞(『キツツキと雨』)を受賞するなど、国際的にも高い評価を受ける。
09年には、主演の『ガマの油』で、初監督を務める。
12年6月に紫綬褒章を受章。
13年、『聯合艦隊司令長官 山本五十六』と『わが母の記』で日本アカデミー賞 優秀主演男優賞を受賞。
近年では、三谷幸喜監督作品『清須会議』(13年)に主演するなど、数々の話題作に出演し、日本を代表する俳優として活躍している。
今後も、中島哲也監督作品『渇き。』(14年6月27日公開)、小泉堯史監督作品『蜩ノ記』(14年10月4日公開)などの主演作が公開予定。